ロシアの障がい者の暮らし
12日、ウクライナの首都キエフで開催されるユーロビジョン2017に、脊髄性筋萎縮症により13歳から車イス生活を送っている歌手ユリヤ・サモイロワがロシア代表として出場することが明らかになった。これには議論が巻き起こっている。誰もがサモイロワに対して尊敬の念を表しているものの、「第1チャンネル」の審査員の選択が何を意味するのかについて、意見は異なっている。
体の不自由な女性の参加は重要かつ象徴的な第一歩であり、ロシア社会をより寛容な良い社会に導くと考える人がいる一方で、ロシアは障がい者にとっていかなる障壁もない国であるとの現実とはかけ離れた姿をアピールする「旗」として、サモイロワが利用されていると考える人がいる。
皆の街になっていない
体の不自由な人のためのインフラはロシアでは整っておらず、政府もそれを認めている。ユーリ・チャイカ連邦検事総長は今月初め、障がい者の移動用インフラがないか、あっても悲惨な状態にあることを指摘した。
障がい者自身、環境が整っていない、または整えてもらうために長期間行動しなくてはいけないと話す。サンクトペテルブルクの車イスの男性で、社会組織「障壁のない車イス生活」のメンバーであるマクシム・ニコノフさんは、自身の暮らすマンションの出入り用スロープを家族が自費で設置したとロシアNOWに説明した。
ロイター通信
ニコノフさんによれば、サンクトペテルブルクでは多くの改善があったというが(たとえば、自身の暮らす地域では、車イスに乗っている人が行動を起こした後、多くの店にスロープが設置された)、まだたくさんの問題が残っているという。地下鉄には、たとえば、エスカレータで降車するための特別なシステムがあるものの、すべての車イスに合うわけではない。
大都市では障がい者用インフラが比較的整っているが、田舎では状況がもっと深刻である。「障がい者がある程度快適に暮らせるのは大都市だけ」と、シベリアの小さな街キセリョフスクに暮らす車イスの女性エレーナさんは、ロシアの「ザ・ヴィレッジ」誌に話した。エレーナさんによれば、モスクワに行こうとした際、空港に車イス昇降機がなかったため、人に運んでもらったのだという。これは大人にとって屈辱的な瞬間である。
社会の問題
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ロシアの障がい者の悩みは設備だけではない。障がい者との交流の仕方を知らない人も多く、騒動になることもある。今月初めに放送された「第1チャンネル」のコンテスト番組「名声の瞬間」では、2人の審査員が片足のダンサーの出場者エヴゲニー・スミルノフさんを批判。スミルノフさんの演技「禁じ手」が、他の人に対して誠実ではないと考えた。別の騒動はチェボクサル空港(チュヴァシ共和国)で起きた。パラリンピック選手のザミル・シカホフさんが、人に運んでもらうのを拒んだのである(空港には車イス昇降機がなかった)。「私は手荷物じゃない、生きた人間!」と言った後、手を使って階段を降りた。問題は、ロシアで通常、障がい者が社会から孤立しているということである。障がい者はいつも家におり、社会は失礼にならないような交流の仕方を知らないと、遠隔支援プロジェクト「他を助け、己を助ける」の創設者で代表のヴェラ・ザハロワさんは考える。「障がい者は働いたり、散策したりと、もっと活発な生活を送れたら喜ぶが、(インフラ)問題があるため、皆が実行できるわけじゃない」とザハロワさん。公式データによれば、ロシアの労働可能な障がい者370万人のうち、実際に就職している人はわずか4分の1である。
解決するには
視・聴覚障がい者支援慈善基金「共同団結」のドミトリー・ポリカノフ理事は、障がい者の問題解決には体系的な取り組みが必要だと考える。「公共の場にスロープや障がい者用トイレを設置するだけでなく、車イスの人や目の不自由な人が家からでて、それらの設備にたどり着くまでの、コース全体を考える必要がある」とロシアNOWに話した。
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また、社会で寛容さを育てることも重要である。「障がい者との正しい交流の仕方を教えるまで、何も変わらない」とポリカノフ理事。この点で、一定の進歩がある。2012年から、小中高校では「やさしさの授業」が行われており、障がい者にどう接するべきかが説明されている。ロシアの障がい者は徐々に活発になっており、それは良いことだとポリカノフ理事。「通りで車イスの人や白杖を持っている人を見かけることが5年前よりも増えた。社会が慣れて、正しくふるまうのに役立つ」とポリカノフ理事。
ニコノフさんの観察によれば、社会で確かに進歩があるという。障がい者に対していらだつことが減り、手伝いも積極的になっている。「でも、ひんぱんにヨーロッパに行くからわかるけど、ヨーロッパのレベルまではほど遠い」とニコノフさん。